インフラ監視、製品開発、設備保守の現場では、ひずみ測定が非常に重要な役割を果たしています。これらの分野では、正確なひずみデータが安全性や製品の品質を左右するため、測定ミスは重大なリスクを伴います。「測れているつもり」で進めてしまうと、判断ミスを引き起こし、致命的な故障や事故に繋がる可能性があります。
ひずみ測定は、構造物や機械の安全性や性能を評価する上で欠かせないプロセスです。しかし、測定結果に誤差が生じる原因が分からず、正確なデータ取得に苦戦している方も多いのではないでしょうか。また、データロガーの選定に迷ったり、ひずみゲージの設置に気を使いすぎてしまい、作業効率が落ちてしまうこともあるかもしれません。
本記事では、ひずみ測定の基礎的な仕組みから、データロガー選定のポイント、そして計測誤差を生む原因とその対策まで、エンジニアが知っておくべき技術的要点を論理的に解説します。
ひずみ測定とは?
ひずみ測定とは、物体に加わる外力によって生じる変形や歪みを計測する技術を指します。この技術は、材料工学や土木工学、機械工学など、さまざまな分野で重要な役割を果たしています。また、ひずみ測定の技術は、研究開発の現場においても新素材の特性評価や新しい設計手法の検証などに利用されており、技術革新を支える重要な基盤となっています。
ひずみの定義
ひずみとは、物体に力が加わった際に生じる変形の度合いを示す無次元量であり、元の長さに対する変化の割合として表されます。極めて微小な変化を扱うため、通常は10⁻⁶(百万分の一)を表すμε(マイクロひずみ)という単位が用いられます。
ひずみゲージの構造と抵抗変化の仕組み
ひずみゲージは、ひずみ測定における中心的なセンサーです。主に薄い電気絶縁物のベース上に、格子状の抵抗線やフォトエッチング加工された抵抗箔を形成した仕組みを持っています。 検出の仕組みとしては、測定対象物の変形に伴って接着されたひずみゲージも伸縮し、その抵抗値が変化することを利用しています。この微小な抵抗変化を「ホイートストンブリッジ回路」によって電圧信号に変換し、データロガーなどの計測機器で読み取ります。
高精度計測を支えるデータロガーの役割
ひずみゲージが捉えた微弱な信号を、正確な数値として記録するのがデータロガーです。高精度なひずみ測定には、ロガーの内部処理能力が直結します。
信号増幅回路(アンプ)とフィルタリング
データロガーは微弱な信号を高精度に処理するために、信号増幅回路(アンプ)とフィルタリング機能を備えています。
- アンプ
ひずみゲージの微小な抵抗変化から生じる電圧信号を適切なレベルまで増幅し、後続の計測回路が正確に信号を読み取れるようにします。増幅には低ノイズで高精度なアンプが求められ、これにより信号の忠実性が保たれます。 - フィルタリング
信号中の不要な高周波ノイズや環境からの干渉成分を除去し、信号の品質を向上させる役割を果たします。計測データの精度が向上し、誤差の低減に寄与します。
A/D変換の分解能とサンプリング周期
データロガーを用いたひずみ測定では、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換の性能が計測精度に大きく影響します。データロガーの選定時には、これらのA/D変換特性を考慮し、測定対象のひずみの変化速度や必要な精度に応じた分解能とサンプリング周期を選ぶことが重要です。
- 分解能
信号を何段階で表現できるかを示し、16bitなどの高分解能であれば微細な変化を捉えられます。 - サンプリング
理論上は最高周波数の2倍を超える速さ(サンプリング定理)で元の信号情報を保持できますが、データロガー上で波形のピーク値や形状を荒くならずに正確に再現するためには、実務上の目安として最高周波数の10倍以上の速さでサンプリングを行うことがポイントです。
計測誤差を生む3大原因と現場で取るべき対策
ひずみ測定において、データに誤差が生じる原因は現場の環境に潜んでいます。主要な3つの原因と対策を以下にまとめます。
① 温度変化による「熱出力」への対策
ひずみゲージは温度に非常に敏感です。荷重の変化がないのに数値が動く現象(ドリフト)は、主に温度が原因です。
| 誤差の原因 | 発生の仕組み | 具体的な対策 |
|---|---|---|
| 熱出力 | ゲージと測定対象物の「熱膨張率の差」により、温度変化がひずみとして検知される。 | 自己温度補償ゲージの使用。測定対象(鋼、アルミ等)に合わせたゲージを選定する。 |
| 温度ドリフト | ゲージや接着剤が熱を持ち、抵抗値が時間とともに徐々に変化してしまう。 | 2ゲージ法(アクティブ・ダミー法)の採用。同じ環境下で荷重をかけないダミーで相殺する。 |
- ポイント
鋼材は1℃の温度変化で1m当たり11μm(11マイクロひずみ)も変化します。対策として、一般的なひずみゲージでは、型式の末尾に「11(鋼材向け)」や「16(ステンレス向け)」などと線膨張係数が記載されているので、測定対象に合わせて選ぶようにしましょう。
② 長距離配線による「感度低下」
データロガーと測定地点が離れている場合、リード線そのものが誤差の大きな要因となります。
| 誤差の原因 | 発生の仕組み | 具体的な対策 |
|---|---|---|
| リード線抵抗 | 長い配線の抵抗成分により、ゲージから出力される微弱な電圧が減衰してしまう。細いリード線で20m延長すると約7%の誤差が発生します。 | 3線式結線法を採用する。配線抵抗の変化をキャンセルし、感度低下を最小限に抑える。 |
| 電磁誘導ノイズ | 周囲の動力線やモーターから発生する磁界が、計測信号に混入する。 | ツイストペア・シールドケーブルを使用。配線経路を強電線から離し、片側接地を徹底する。 |
③サンプリングレートの不適合
測定対象の動き(静的か動的か)に対して、データロガーの時間軸の設定が合っていないと、データは信頼性を失います。
| 現象の種類 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 動的現象(振動・衝撃など) | サンプリング周波数が対象の最高周波数の2倍未満だとエイリアシング(偽の波形)が発生する。また、2倍以上であっても低すぎる場合は、波形のピークを見逃し、記録される波形形状が荒くなってしまう。 | 最低でも対象の最高周波数の2倍を超える速さ(サンプリング定理)を確保する。その上で、波形やピーク値を正確に記録・再現するための実務的な目安として10倍以上の速さでサンプリングを行う。 |
| 静的現象(変位・長期監視など) | 過剰に高速なサンプリングは、データ量を膨大にし、ノイズも拾いやすくなる。 | 数秒〜数分間隔の低速サンプリングに設定し、データロガー内の平均化処理(フィルタ)を併用して安定性を高める。 |
動的現象の計測で特に注意すべきエイリアシングの発生メカニズムと、具体的な回避策についてはこちらの記事を参考にしてください。

ひずみ測定の仕組み・基礎知識に関するよくある疑問
- ひずみ測定に使うデータロガーは、どのような基準で選べばよいですか?
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データロガーは、基本的な性能に加え、以下の4つのポイントで選定します。
- 測定要件:チャネル数、サンプリング周期、精度が要件を満たすか
- 入力の種類:ひずみ以外の物理量も測るならマルチ入力に対応しているか
- 耐ノイズ性:ノイズの多い環境ではチャネル間絶縁タイプが有効 ・操作性:設定が簡単で、PCとの連携がスムーズか
- ひずみと同時に、温度や振動(加速度)なども測定したいのですが可能ですか?
-
はい、「マルチ入力」に対応したデータロガーを使用すれば可能です。1台でひずみ、温度、加速度といった複数の物理量を、時間軸を同期させて同時に記録できます。これにより、システム構成がシンプルになり、現象の因果関係を正確に分析しやすくなります。
まとめ:信頼性の高い計測系を構築するために
ひずみ測定は、単にセンサーを貼るだけの作業ではありません。ひずみ測定の仕組みを深く理解し、適切なデータロガーを選定、そして温度や配線抵抗といった誤差の原因を一つずつ潰していくことで初めて、信頼に足るデータが得られます。さらに、データロガーのサンプリングレートや分解能も精度に影響します。高精度な計測には、測定対象の動的な特性に応じた適切なサンプリングレートを設定し、分解能の高い機器を選ぶことが重要です。
本記事で解説した基礎知識をベースに、より精度の高い計測体制を構築し、現場の安全性と品質向上に役立ててください。

