EV(電気自動車)や自動運転技術の開発、あるいは産業機械の高機能化が加速するなか、現場では取得すべき計測データがかつてないほど肥大化しています。 データが多様化するほど、現場では「計測器の乱立による煩雑な配線」や「波形データと実機の挙動(映像)の手作業での突き合わせ」が発生し、結果として原因特定が遅れ、試験・解析の「手戻り」を招くという本末転倒な事態が起きています。
本記事では、こうした「データと事実の不一致」や「準備工数の肥大化」といった計測課題を根本から解消する、キーエンスのマルチ入力データロガー「NR-Xシリーズ」の活用術を解説します。
現場の課題を解決する「データと映像の連動」と「1台10役のマルチ計測」の実力が、日本のモノづくり開発の最前線でどう評価されているのか。試験・解析時間を1/5に短縮した株式会社クボタの最新導入事例からひも解きます。
製品の高機能化に伴う計測の複雑化。開発現場が抱える「手戻り」の課題
製品の高度化に伴い、試験評価におけるデータ収集は極めて複雑なプロセスへと変化しています。特に以下の2点が、開発サイクルの停滞を招く「手戻り」の原因となっています。
計測データの多様化が招く「複数機器の乱立」と「配線負担」
現在の試験評価では、一つの対象物に対して多種多様な物理現象を同時に計測することが不可欠です。
- 計測対象の増加
温度、電圧、ひずみ、加速度、CAN/CAN FD通信データなど。 - 従来の課題
信号ごとに異なる専用計測器を用意するため、機器が乱立し、時刻合わせや設定に膨大な工数がかかる。 - 配線リスク
数十チャンネル以上のアナログケーブルを引き回すことで、準備に時間がかかるだけでなく、ノイズ混入や配線ミスの原因になる。
映像と波形のズレによる解析の長期化
異常値が発生したとき、エンジニアは「その瞬間に何が起きたか」という事実を確認する必要があります。
- 従来の解析手法
ビデオカメラ映像と波形データを別々に収集し、手作業でフレームを合わせる。 - 深刻な弊害
映像と時刻を合わせることに手間が発生し、膨大なデータから該当箇所を探してデータを統合するだけで数時間を浪費する。この手間により確認にかかる工数が大きく増加してしまう。
「1台10役」と「データと映像が連動」で計測工程を時短するNR-Xシリーズ
ここまで見てきた「複数機器の乱立による配線の肥大化」や「手作業での映像確認によるタイムロス」は、もはやエンジニア個人のスキルや努力でカバーできる限界を超えつつあります。
しかし、キーエンスのマルチ入力データロガー「NR-Xシリーズ」は、「複数機器のセッティング」や「データの突き合わせ」といった計測準備から解析までの工程そのものを劇的に効率化します。以下の表は、従来の一般的な計測手法とNR-Xシリーズを導入した場合とで、現場のワークフローや負担がどのように変わるのか、その違いを整理したものです。
| 項目 | 従来の計測における課題 | NR-Xシリーズでの解決策 | 導入後の具体的メリット |
|---|---|---|---|
| 計測の集約 | データの種類ごとに複数の計測器が必要 | 1台10役。 異なる信号を1台で統合計測。 | 機器の管理コストを削減し、計測器の「空き待ち」を解消。 |
| データの連動 | 機器ごとの時刻合わせ・手動での映像確認 | システム内部でデータと映像が連動。データと映像を統合する手間はゼロ。 | データと映像を統合する手間・工数や、データのズレによる「解析ミス」と「やり直し」を根絶。 |
| 配線工数 | 数十本以上のアナログケーブルを引き回す | 専用ケーブル1本。リモートユニット方式採用で省配線設置可能。 | 準備時間を最大80%削減※。 配線ミスとノイズ混入を防止。 |
| 解析の速さ | 波形と映像の突き合わせに多大な労力 | クリック一つで波形と映像が連動再生。 | 原因特定までの時間を1/5に短縮※。 即座に次の一手が打てる。 |
※数値はメーカー調べ、または特定事例に基づく実績値。
このように、NR-Xシリーズは「これまでバラバラだった機器やデータを1つに完全に統合する」ことで、圧倒的な時短を見込めます。
ここからは、このブレイクスルーを実現した2つの独自技術について、さらに詳しく解説します。
独自の技術①:データ連動カメラによる「映像×波形」の連動
データ解析において最も時間を浪費していたのが「異常値が出た瞬間の実機の映像を探し出す」という突き合わせ作業です。NR-Xシリーズは、数値データと映像を直結させることで、手作業による解析時間を圧倒的に短縮することが可能です。
- 繋ぐだけで完了する「自動連動」
複雑な設定は不要で、カメラを接続するだけ。波形データと実機の映像が、システム内部のクロックで完全に一致して記録されるため、後から時刻を合わせる手間がありません。 - クリック検索で「即座に再生」
専用の解析ソフト上で波形の異常箇所(ピークなど)をクリックするだけで、その瞬間の映像が即座に連動して再生されます。データで変化を探し、映像から理由を見つける作業がシームレスに行えます。 - 決定的瞬間を逃さない「イベント録画」
温度や電圧などが「しきい値」を超えたタイミングをトリガーとし、変化の前後だけを狙って録画することが可能。異常が発生した「瞬間」だけを確実かつ効率的に捉えます。
独自の技術②:「1台10役」のマルチ計測と「リモートユニット」
もう一つの大きな壁が、多様なデータを集めるための物理的な準備(配線や機器のセッティング)です。NR-Xシリーズは、この「配線の負担」も独自のアプローチで解決します。
- 1つのタイムスタンプで管理する「1台10役」
温度、電圧、ひずみ、加速度、CAN/CAN FDなどに至るまで、最大576チャンネルもの多様なデータを1台で一括管理。すべてのデータが共通のタイムスタンプで記録されるため、機器の乱立を防ぎます。 - 専用ケーブル1本による「劇的な省配線」
現場の配線負担を激減させるのが「リモートユニット」です。マスタユニットと各計測ユニットの間を専用ケーブル1本で最大60mまで接続可能。計測対象のすぐ近くにユニットを分散配置できるため、煩雑なアナログケーブルの引き回しを最小限に抑え、配線ミスの防止とノイズ低減を実現します。
キーエンスの公式サイトでNR-Xシリーズについてより詳しく知りたい方はこちら
【導入事例】モビリティ・次世代開発の最前線が実証するNR-Xシリーズ
複雑化する開発現場において、NR-Xシリーズは「手戻り」を削減し、開発スピードを向上させています。最新の計測ニーズに応える株式会社クボタの成功事例を紹介します。
株式会社クボタ:カメラの「ポン付け」で映像とデータを連動。試験・解析時間を「1/5」に短縮
トラクタをはじめとする車両の高機能化・高付加価値化を進める株式会社クボタ様では、多種多様な計測ニーズへの対応と、データ解析の手間に直面していました。
【抱えていた課題】
- 手作業での映像確認に膨大な労力
実車耐久試験において、スマートフォン等で撮影した動画と、電圧信号などの計測データを手作業でフレーム単位で合わせており、多大な時間を要していました。 - データ収集の煩雑化
ひずみ、温度、電流、加速度など、計測すべきデータの種類とチャンネル数が増加し、収集作業の効率化が急務でした。
【NR-X導入による解決と成果】
- 映像のリアルタイム連動で解析時間を「1/5」に短縮
データ連動カメラを「ポン付け」するだけで、映像と計測データが自動で連動するため、波形の異常と実機の動きが瞬時にひも付き、想定外の変化が起きたときも即座に原因特定が可能になりました。 - 業務の標準化と教育への貢献
直感的な使いやすさから、現在では「とりあえずNR-Xでデータを取る」という方針が社内で確立されています。その操作習得が新入社員の「一人前」の基準となるなど、属人化の解消にもつながっています。

「1台10役」を実現するマルチ入力ユニットとは?試験回数を激減させる計測手法については、以下の記事で解説しています。

キーエンス「NR-Xシリーズ」に関するよくある質問
- 自動車・EV開発の車両計測で、CAN通信と温度・電圧を一緒に記録できますか?
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キーエンスのNR-Xシリーズは、CAN/CAN FDデータ収集ユニット(NR-CF512)と温度・電圧・ひずみ・加速度などの計測ユニットを1台に組み合わせ、すべてのデータを同じ時間軸で記録できます。EVのバッテリーやインバータ評価に向けた最大±1000V入力の高速・高電圧計測ユニット(NR-HV04)も用意されており、収集データは自動車業界の標準形式であるASAM MDF(.mf4)で出力できます。電圧・温度と映像を同じ計測器で扱えるうえ、CAN/CAN FD信号も同じシステムに加えられるのが特長です。
- 製造業での導入実績はありますか?
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あります。本記事で紹介した株式会社クボタでは、トラクタの実車耐久試験などでNR-Xシリーズを研究開発の主要な計測器として採用しています。「とりあえずNR-Xでデータを取る」という方針が社内で確立し、その操作習得が新入社員の「一人前」の基準になるほど標準化が進んでいます。
- 計測データとカメラ映像を連動して撮影できますか?
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NR-Xシリーズは、データ連動カメラ(NR-CM01)を接続するだけで、波形データと映像を連動させて撮影できます。後から時刻を合わせる作業は不要で、解析ソフト上で波形の変化点をクリックすると、データに連動した映像が確認可能です。しきい値を超えたタイミングをトリガーに、変化の前後だけを録画するイベント録画にも対応しています。
まとめ:計測準備の手間を最小化し、本来の「データ解析と製品改善」に集中できる環境へ
EVや自動運転、あるいは高度な自動化技術の開発競争が激化する現代において、エンジニアに求められているのは、計測器を使いこなす技術そのものではありません。得られた膨大なデータから「製品を良くするための次の一手」を導き出す洞察力です。
本記事でご紹介した事例が示す通り、NR-Xシリーズの導入は単なる「機器の置き換え」に留まりません。
- 「1台10役」のマルチ計測が、機器の乱立と試験回数を削減する。
- 「データ連動カメラ」が、波形と事実(映像)を瞬時に結びつけ、解析の迷いをなくす。
- 「リモートユニット」が、煩雑な配線作業からエンジニアを解放し、人的エラーを排除する。
これらの独自技術によって「計測の不確実性」や「準備工数の肥大化」を解消することは、開発現場における最大級のロスである「試験の手戻り」をゼロに近づけることを意味します。
計測器のセッティングやデータのひも付けといった付帯作業を極限まで減らし、エンジニアが本来の目的である「データの解析と製品改善」に100%の力を注げる環境を構築する。それこそが、製造業の競争力を高める、これからの計測環境の真の価値です。
NR-Xシリーズの製品概要や他社製品との詳細なスペック比較については、以下の記事で詳しく解説しています。


NR-X シリーズの特徴
- リモートユニット計測:専用ケーブル1本で接続。大型設備や車両の配線工数を大幅に削減
- データ連動カメラ:波形と映像が連動。異音や挙動の因果関係を誰でも可視化
- 最大576ch計測:センサー付近に計測ユニットを配置しノイズを抑制。大規模計測も1台で完結

